PUBLICATIONS論文誌・刊行物

STEM教育研究 第1巻

2018-12-23 | PUBLICATIONS

STEM教育学会設立から1年が経過し、最初の論文誌となるSTEM教育研究第1巻では「STEM教育の実践と展望」というテーマで特集を組みました。

STEM教育の在り方、各国のSTEM教育への取り組み、現場でのSTEM教育の実践研究、国内外の実態調査や展望など、多様な側面からの研究論文を広く投稿いただきました。
第1巻では査読および編集委員の協議の結果、5本の論文を採択しました。
また特別寄稿として、郁文館グローバル高等学校の卒業生による、高校生が取り組まれた研究を掲載しています。

これらの研究成果が多くの読者にとって参考になり、今後の教育の改善に役立てられることを期待しています。
STEM教育学会では、今後も「STEM教育研究」の刊行と内容の充実を図ってまいりたいと考えております。今後もより多くの研究者が投稿されることと、より多くの読者に活用していただくことを期待しております。

本誌に関するご意見、ご感想等は、お問い合わせフォームより受け付けています。

編集長 赤堀侃司(一般社団法人 ICT CONNECT21)
副編集長 中川一史(放送大学)
編集委員 安藤明伸(宮城教育大学)
編集委員 大谷忠(東京学芸大学)
編集委員 岡部恭幸(神戸大学大学院)
編集委員 門田和雄(宮城教育大学)
編集委員 中橋雄(武蔵大学)
編集委員 堀田博史(園田学園女子大学)
編集委員 益川弘如(聖心女子大学)

発行者: 日本STEM教育学会
発行地: 東京都新宿区

 

■巻頭言
これまでのSTEM教育と今後の展望
新井 健一

現在,世界各国で取り組まれているSTEM教育は,もともとは米国で科学技術による国際競争力を高めるため,理工系科目の履修を高めることを目的に進められた。その結果,STEM関連の職業は有望な職業となり,現在では,STEM教育の概念が拡大して,AI社会を生きる人たちにとって必要な学びとなっている。一方,日本では,STEM教育はまだ学習指導要領に位置づいていないため,教育実践も研究知見も十分ではない。しかし,現在の枠組みの中でも取り組むことは可能である。本稿では,新学習指導要領とその先の学習指導要領を視野に,これからのSTEM教育のあり方を展望し,これからの社会に必要な資質・能力の育成について考察する。

 

■論文
知的障害特別支援学校の自立活動におけるプログラミング教育の実践
―小学部児童を対象としたグリコードを用いて―

山崎 智仁・水内 豊和

知的障害特別支援学校の小学部において,知的障害を伴う自閉スペクトラム症の児童を対象に自立活動の時間にグリコード(GLICODER)を用いたプログラミング教育を実践した。児童の実態を踏まえ,自立活動のねらいから目的を達成するために必要な手順を思考したり,自分の考えを整理して相手に伝えたり,相手の意図を理解して受容したりすることを目指した。プログラミング教育のねらいであるコンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力の育成を同時に図ることで,対象児は活動を達成するための指示を思考したり,自分の意見を友達に伝え,友達の意見を聞くことで意見を折衷したりする姿が見られた。

 

教科学習を横断するプログラミング的思考のパタン
星 千枝・後藤 義雄・小田 理代・永田 衣代・赤堀 侃司

小学校新学習指導要領でプログラミングが必修化された。我が国では,英国のようにプログラミングの教科が新設されたのではなく,従来の教科学習においてプログラミング的思考を育むことになっている。限られた授業時数の中で,教科のねらいをふまえながら,その学びを深めるために,どのようにプログラミング的思考を導入すればいいのか。教科のねらいとプログラミングのねらいの両方が相乗効果を生み,より教科理解が進むような教材とは何なのか。そのような問題意識のもと,本研究では,教員が従来の教科学習にプログラミング的思考を導入する観点を明らかにするために,文部科学省のプログラミング的思考の定義に合わせて評価規準を作成し,それをもとに,小学校の現職教員とともにプログラミング的思考を導入した教科学習の教材開発を試みた。開発された教材や諸外国の教材事例を分析した結果,教科学習に取り入れやすいプログラミング的思考のパタンとして7つの分類を提案する。

 

小学校特別支援学級における様々な障害のある子どもに対するプログラミング教育の実践
水内 豊和・山西 潤一

小学校特別支援学級に在籍する,知的障害を含む様々な障害のある13名の児童に対し,自立活動の時間に位置付けたプログラミング教育の実践を行なった。障害のある子どもに対するプログラミングツールとして,Code A Pillar,Ozobot,Viscuitを用いた学習教材の開発と授業により,論理的思考力の獲得のみならず認知,学習,コミュニケーション能力などの発達の諸側面においてもその向上に寄与が見られた。また,プログラミング教育での学びを活かして,交流及び共同学習として通常学級の2年生児童に対し,障害のある児童たちがミニハカセとなり指導をする機会を設定した結果,自らの役割を認識し適切に遂行することができた。これらのエビデンスをふまえて,障害の特質や能力に応じた学習効果を高めるプログラミング教育のあり方について検討した。本研究から,プログラミング教育は,小学校特別支援学級に在籍する障害のある子どもたちにとっても有効な教育内容であることが確認された。今後の実践研究の広がりと深まりが期待される。

 

小学生を対象としたプログラミング教育のためのルーブリックの提案
齋藤 大輔・佐々木 綾奈・鷲崎 弘宜・深澤 良彰・武藤 優介・田村 麻里子・西澤 利治

小学生を対象としたプログラミング教育を等しく評価する方法は確立されていない。この課題を解決するために,Rubric ProEEsという評価指標の提案とRubric ProEEsに対応するテストを作成した。 提案した指標はプログラミング教育における多くの学習目標の重要な項目を網羅し,評価者に関係なく同等に評価することを可能にする。また,我々は,プログラミングを活用したワークショップにそれを適用し,その妥当性と有用性を確認した。結果,Rubric ProEEsは課題を解決し,児童の理解を定量的に把握することを可能にした。今後は,プログラミングが活用される科目との関係を研究し,学習における総合的な能力を継続的,体系的に評価する。

 

理解深化を促進する協調問題解決活動による問いの生成支援
―学校外の科学教室におけるSTEM授業を例に―

齊藤 萌木・飯窪 真也・堀 公彦

本研究では,問いの生成支援という側面に着目し,STEM教育における協調問題解決活動の効果的な活用のあり方について知見を得ることを目指す。目的の達成のために,小6・中1を対象とした学校外の科学教室において,「知識構成型ジグソー法」を用いて4つのSTEM授業を実践し,児童生徒に授業前後に本時の課題への解答を書かせると共に,授業後に見えてきた問いを記述させる実践研究を行った。1)理解深化,2)問いの生成数,3)問いの内容,4)生成した問いと授業デザインとの関係という4つの観点から児童生徒の学習成果を分析した結果,教師が設定した課題を協調的に解決させる授業によって児童生徒の理解深化を促進することで,児童生徒の問いの生成を効果的に支援しうることを確認できた。一方で,児童生徒が生成する問いの個数や内容は授業によって異なり,問いの生成と授業デザインの関係については継続的な研究が必要であることが示唆された。

 

■特別寄稿
中高生向けメディアリテラシー養成テスト制作
―成熟した民主主義社会を目指して―

伊集 舞奈・段 エディ・山城 佑介

日常に溢れかえっている情報。グローバル化と高度情報化が加速する社会の中で,虚偽や誤情報が蔓延り,本物であることを証明することは困難と化した。フェイクニュースやオルタナティブファクトは社会に蔓延し,ポストトゥルースの時代とまで言われている。そのような社会の中で人々は,情報が持っているメディアメッセージを多角的に判断する力,「メディアリテラシー」を養う必要がある。市民のそれを養わなければ,健全な民主主義社会を創り上げるのは難しい。そこで私たちはメディアリテラシーを「テスト」の形にし,普及しやすく,且つ教育の中に取り込みやすくすることで,学生のうちからその力を培うことが可能であると考えた。多様な角度からメディアリテラシーを養うこのテストは,3部構成で段階的に力をつけることが可能となっている。これを用いて私たちは,社会のメディアリテラシー養成を目指す。

 

■その他
第1回年次大会報告

科学技術の進展を背景に、STEM教育の研究は、先進諸国を中心に深められている。日本では、2020年度から実施される小学校の新学習指導要領でプログラミング教育が必修化されこともあり、あらためて注目を集めている。日本STEM教育学会は、これからのSTEM教育について体系的・論理的に研究し、よりよい実践を追究するため、2017年に発足した。2018年10月13日(土)には、その第1回年次大会が、東京都台東区の国立科学博物館日本館で開催された。大会の様子をご紹介する。